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保健学科検査専攻
分野紹介-後編-

分野紹介、後編です。
 

今回は、分子機能解析学分野、臨床生理検査学分野、感染分子病態解析学分野の紹介です。

 
分子機能解析学 Molecular and Functional Dynamics
【乳癌克服のための検査法・新規治療法を目指して ~乳癌の診断と治療に役立つ基礎研究~】
(教員:林 慎一教授、丹羽 俊文准教授)
当分野では、検査医科学の基礎となる領域、特に生化学、分子生物学、臨床化学、分析化学等の教育・研究を行っています。研究では、臨床生化学検査の領域での超微量分析法の開発や、新たな診断マーカーの探索、その動態解明を目指しています。また、近年の医療の急速な進歩に対応し、ゲノムレベルの網羅的検査法やオーダーメード医療のための新規分子診断法の研究開発を行っています。
研究対象としては、乳癌などのステロイドホルモン依存性腫瘍の研究を行っています。ステロイドホルモンであるエストロゲンは、体内の様々な臓器で細胞の増殖、分化、恒常性維持を制御している重要な情報伝達物質ですが、一方で乳癌の発生や増殖を促す作用もあります。これらの癌細胞ではエストロゲン受容体がその病態と密接に関係し、実際、抗ホルモン剤によってその機能をブロックする治療がホルモン療法と呼ばれて広く施行され、効を奏しています。しかし、耐性を獲得し再発する例も多く、臨床上の問題となっています。そこでこの分野では乳癌の発生進展の分子メカニズムの解明、ホルモン療法の効果予測、ホルモン療法耐性の機序の解明、乳癌幹細胞の研究などを通して、乳癌患者さんや社会に貢献できる成果を目指して研究を行っています。

主な論文
Yamaguchi Y, et al. Detection of estrogen-independent growth-stimulating activity in breast
cancer tissues: implication for tumor aggressiveness. Cancer Microenvironment, 7: 23-21,
2014
Fujii R, et al. Increased androgen receptor activity and cell proliferation in aromatase
inhibitor-resistant breast carcinoma. J. Steriod Biochem. Mol. Biol., 144: 513-522, 2014

先生から受験生の皆さんへ
小さな研究室ですが、教員スタッフ、大学院生ら一丸となって、一生懸命、かつ楽しく、をモットーに研究を進めています。残念ながら近々、定年が予定されており、新規の院生の採用はできませんのでご承知下さい。

臨床生理検査学 Clinical Physiology
【心臓が機能的合胞体であるという視点から、心臓突然死の発生機序の解明を目指す】
(教員:三浦 昌人教授、佐藤遥助教)
心筋が病的な状態になると、不整脈が起こりやすくなり、これが心臓突然死につながります。このような病的心筋における催不整脈性亢進の機序として、カルシウム調節蛋白質の発現量とその細胞内分布の変化などが報告されています。しかし心臓は機能的合胞体といわれ、遺伝子レベル、タンパクレベル、細胞レベルの研究のみでは捉えきれない独特の機序があります。この研究室では、まず初めに細胞レベル、次に組織レベルの研究を通して、病的心筋における催不整脈性の亢進機序を解明してきました。
心筋虚血や慢性心不全などの病態では、その内部に収縮力の低下した領域が混在し、不均一収縮となっています。この領域の収縮蛋白からのカルシウム解離が不整脈の発生機序と関与していることを明らかにし、さらに解離カルシウムが引き起こすカルシウム波が不整脈の引き金となることも解明しました(Figure1)。今後も心臓突然死のさらなる解明を目指し研究をしています。

主な論文
Miura M, et al. Transient elevation of glucose increases arrhythmia susceptibility in non-
diabetic rat trabeculae with nonuniform contraction. Circ J. 2020;84:551-558.
Izu LT, et al. Mechano-Electric and Mechano-Chemo-Transduction in Cardiomyocytes. J
Physiol. 598.7; 1285-1305, 2020.

先生から受験生の皆さんへ
臨床生理学、特に検査学を教授すると共に、心室筋を用いたカルシウム動態と不整脈の研究を行っています。このような研究に興味がある方はぜひ御一報下さい。

感染分子病態解析学 Medical Microbiology, Mycology and Immunology
【微生物感染から体を守る免疫の仕組みを解明し、新規ワクチンの開発へつなげる】
(教員:川上 和義教授、石井 恵子准教授)
人類の進化は、まさに微生物との共存の歴史です。その結果として、人の体には、微生物を排除するために、あるいは共生するために、免疫系という精巧なしくみが備わっています。免疫系は、ある場合には微生物の侵入を阻止し、ある場合には共生を許し、またある場合には行き過ぎた反応によってアレルギーや 自己免疫疾患など様々な疾患を引き起こします。遺伝疾患を除けば、ほとんどの疾患は感染と何らかの関係があると言っても過言ではありません。したがって、微生物に対する免疫応答のしくみを紐解くことは、これら多くの疾患の発病メカニズムの解明に役立ちます。近代科学の発展により多くの免疫現象が分子レベルで理解されるようになってきた今、研究の中心は、微生物と宿主細胞との相互作用のしくみを解き明かすことに向けられています。
この研究室では、真菌、細菌を中心とした病原微生物に対する免疫応答機構を自然免疫、獲得免疫、免疫記憶の観点から解明することを目指して研究を実施しています。さらに、得られた研究成果をもとに、ナノ粒子ワクチンを含めた新規ワクチンの開発を、工学(東北大学材料科学高等研究所)、農学(東北大学大学院農学研究科)と異分野連携で進めています。

主な論文
1) Sato Y et al: Limited role of Mincle in the host defense against infection with Cryptococcus deneoformans. Infect. Immun., in press, 2020.
2) Sato K et al: Production of IL-17A at innate immune phase lead to decreased Th1 immune response and attenuated host defense against infection with Cryptococcus deneoformans. J Immunol, 205: 686-698, 2020.
3) Yamaguchi K et al: Distinct roles for Dectin-1 and Dectin-2 in skin wound healing and neutrophilic inflammatory responses. J Invest Dermatol, in press, 2020.
4) Dobashi-Okuyama K et al: A novel Toll-like receptor 9 agonist derived from Cryptococcus neoformans attenuates Th2-type immune responses in asthma. International Archives of Allergy and Immunology, in press, 2020. 5) 佐藤 光, 石井恵子, 川上和義: 肺炎球菌感染症に対する現行ワクチンの特徴と次世代ワクチンの開発, 日化療会誌, 68: 518-531, 2020.

先生から受験生の皆さんへ
感染宿主の免疫応答に重点をおいて、病原微生物を対象に、免疫学的、分子生物学的アプローチで研究を行ないます。興味のある人は気軽に研究室を覗いてください。

分野紹介、いかがでしたか?
東北大学では、このような最先端の研究をなさっている先生方からの授業を受けることができます。
これまでの分野に興味を持った方、ぜひ医学系研究科ホームページも覗いてみてくださいね。

「研究への扉」はもう、皆さんの目の前です。