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保健学科検査専攻
分野紹介-前編-

検査専攻の研究分野を紹介します。
今回は前編です。
楽しい研究の世界を覗いてみてください。

東北大学は「研究第一主義」。検査専攻の学生も大学院への進学を希望することが多いです。
前編は、分子内分泌学分野、分子血液学分野、病理検査学分野、内分泌応用医科学分野を紹介します。

分子内分泌学 Molecular Endocrinology
【ホルモン核内受容体の基礎研究を基盤とした内分泌代謝疾患・メタボリック症候群の病態解明ならびに新規創薬】
(教員:菅原 明教授、横山 敦助教)
内分泌代謝疾患とは、簡単に言うと体内のホルモン異常によっておこる疾患のことです。
この分野では、分子生物学的手法や遺伝子改変マウスを用い、難治性の内分泌代謝疾患や、メタボリック症候群・生活習慣病の病態解明、さらにはホルモン核内受容体や酵素を標的とした新規創薬・治療法の開発を進めています。
これまで、ホルモン核内受容体であるPPARγ(Fig. 1)やレチノイン酸受容体(RAR)・レチノイドX受容体(RXR)(Fig. 2)のリガンドの、pleiotropicな降圧作用や抗動脈硬化作用を明らかにしてきました。現在は、1)副腎アルドステロン合成酵素(CYP11B2)を標的としたハイスループットスクリーニング(HTS)を用いての難治性高血圧症の新規創薬、2)肥満高血圧症の原因と考えられる脂肪細胞由来の未知の液性因子の同定ならびにそれを基盤とした新規診断バイオマーカーの開発などを研究しています。
分子内分泌学分野からは、横山先生がミニ講義動画を作ってくださいましたので、ぜひそちらもご覧ください。

主な論文
Saito-Hakoda A, et al. Effects of RXR agonists on cell proliferation/apoptosis and ACTH
secretion/Pomc expression. PLoS One. 10(12):e0141960, 2015
Yokoyama A, et al. Identification of myelin transcription factor 1 (MyT1) as a subunit of the
neural cell type-specific lysine-specific demethylase 1 (LSD1) complex. J Biol Chem.
289(26):18152-18162, 2014

先生から受験生の皆さんへ
当分野では糖尿病やその合併症の新しい薬を開発しようと日々頑張っています。興味ある方は、是非一緒に研究しましょう!

分子血液学 Molecular Hematology
【GATA因子関連疾患の分子基盤解明に挑む ~転写因子から探る生体の恒常性と疾患のメカニズム~】
(教員:清水 律子教授、平野 育生助教、長谷川 敦史助教)
転写因子とは、正しい時期に、正しい細胞で、遺伝情報であるDNAからタンパク質を作るために必要な物質です。そのひとつであるGATA因子のうち、GATA1、GATA2は特に血球の分化に関わることがわかってきました。近年、GATA1とGATA2の遺伝子変異が、白血病やその他の血液疾患から見つかっていますが、これら遺伝子変異と疾患発症の関連性は十分に検証されていません。そこでこの分野では、転写因子ネットワークに支えられた精緻な遺伝子発現制御が正常な造血に重要であること、その機能破綻が血液疾患発症に直結することに着目し、GATA因子の質的そして量的な異常が疾患を引き起こすメカニズムを分子レベルで探っています。
さらに、GATA因子が、腎臓の機能低下による貧血や慢性炎症性貧血の新しい治療標的分子となり得ること、がん細胞の生存に重要であることが分かってきました。そこで、GATA因子の機能を制御する低分子化合物を開発することで、新しい貧血治療薬や制がん剤を創出できると考え、研究を進めています。
分子血液学分野からは、清水先生がミニ講義動画を作ってくださいましたので、ぜひそちらもご覧ください。

主な論文
Harada N, et al. GATA2 hypomorphism induces chronic myelomonocytic leukemia in mice.
Cancer Sci, 110(4), 1183-1193, 2019
Shimizu R and Yamamoto M. Quantitative and qualitative impairments in GATA2 and
myeloid neoplasms. IUBMB Life, 72(1):142-150, 2020

先生から受験生の皆さんへ
患者さんの病状を深く理解し、より良い医療につなげるためには、様々な生命現象や病気について「なぜ?」「どのように?」と考えを巡らすことが大切です。私達は白血病を始めとした血液の病気の成り立ちについて、「なぜ?」「どのように?」を明らかにするべく研究を行っています。教科書からだけでは得られない新たな発見に挑戦したい方、ぜひ研究室を見に来てみてください。

病理検査学 Pathology and Histotechnology
【乳がんのホルモン作用に迫る~内分泌療法の向上を目指して】
(教員:鈴木 貴教授、髙木 清司講師)
日本人の死亡原因の第一位はがんであり、その治療の向上はきわめて大切です。なかでも乳がんは日本人女性のがんの中で患者数が最も多く、しかも増え続けています。乳がんの発育進展には女性ホルモンが重要な役割を担っているため、女性ホルモンの作用を制御することで乳がんを治療することが可能です。そこでこの分野では、乳がんにおけるホルモン作用について研究しています。
当分野では、病気の原因や機序を明らかにする学問である“病理学”を研究の基盤としています。乳がん組織標本を病理的に詳細に解析して得られた知見を、細胞培養、動物モデルなどさまざまな研究手法を用いて多角的に検証します(Figure 1)。このように病理学的解析と分子生物学的解析を研究の両輪とし、独自の研究成果を生み出したいと考えています。

主な論文
Yamaguchi M, et al. Rac1 activation in human breast carcinoma as a prognostic factor
associated with therapeutic resistance. Breast Cancer. 2020 Sep;27(5):919-928.
Mayama A, et al. OLFM4, LY6D and S100A7 as potent markers for distant metastasis in
estrogen receptor-positive breast carcinoma. Cancer Sci 2018; 109: 3350-9, 2018.

先生から受験生の皆さんへ
小さな研究室ですが、皆フレンドリーで、気軽に相談しあえる環境です。我々とともに、楽しいホルモンとがんの世界をのぞいてみませんか?

内分泌応用医科学 Endocrinology and Applied Medical Science
【生理活性ペプチドの研究を通して病態を知るーそして、臨床検査学の展開研究へ】
(教員:高橋 和広教授、廣瀬卓男助教)
この分野では、内分泌・代謝学の基礎研究の成果を医療に応用することを目的に、高血圧など循環器疾患、腎臓病などさまざまな疾患におけるホルモンによる制御機構、病態解析を行っています。
ここ数年間は、主としてレニンの前駆体であるプロレニンに対する受容体、プロレニン受容体を研究の対象としてきました。特に、腫瘍増殖におけるプロレニン受容体の生理機能の解明、オートファジーとプロレニン受容体の関係や、睡眠時無呼吸症候群における可溶性プロレニン受容体の血中濃度の研究を行ってきました。睡眠時無呼吸症候群の研究は、岩手医科大学睡眠医療学科(櫻井 滋教授、西島嗣生特任教授)との共同研究です。
廣瀬助教は、フランス、パリのコレージュ・ド・フランスに留学し、プロレニン受容体が脳の神経細胞の発達に必須の役割をしていることを証明してきました。

主な論文
Endo M, et al. Increased soluble (pro)renin receptor protein by autophagy inhibition in
cultured cancer cells. Genes Cells 25:483-497; 2020
Hirose T, et al. ATP6AP2 variant impairs CNS development and neuronal survival to cause
fulminant neurodegeneration. J Clin Invest 129:2145-2162; 2019

先生から受験生の皆さんへ
基礎的な医学研究を行い、医療の進歩に貢献できる若い人の入学をお待ちしております。

前編はここまで。
後編は、分子機能解析学分野、臨床生理検査学分野、感染分子病態解析学分野です。
お楽しみに!